暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「おはようございます…か、加藤くん。」


「なんですか?その他人行儀な挨拶。」


そう言いながらズカズカとこっちに向かってくる。


「当たり前でしょう、他人なんですもん。」


「ふうん、他人ねぇ……。」


「な、なによ…。」


窓際に立つ私の所へグイグイと距離を縮めてくる陽日。


「そっかぁ、沙紀さんは他人とでも同じベッドで寝たりするんだぁ。」


私の目の前まで来て、余裕の笑顔で陽日が言う。


こやつ、やはり本性を表してきたか?


何が人当たりも良くてよ……。


「ちょっと、誤解を招くような事言わないで。そこどいてよ。」


「やだ。」


ったく……朝から…面倒くさっ


「ねぇ、ボチボチ誰か来るわよ。うちのフロアは割りとみんな早いんだから。」


「じゃぁ、見せつけてやればいいじゃないですか?」


カシャン……


そう言うと陽日は両腕をブラインドに付けて、私はその両腕に完全に挟まれ行く手を阻まれている。


これって壁ドン……ならぬブラインドドン


なんだろ、アボカド丼的な何かに聞こえるのは私だけか?


はぁ……しゃあないなぁ


「ーーーーー分かったって。おはよう、陽日くん?これでいい?気が済んだ?」


「まだ、ダメ。くんはいらないです。子供扱いされてる感が気に入らない。」


つかさぁ……


仕事前にこんな事してるアンタは十分、お子ちゃまだっつーの!


「んんっ……じゃぁ、おはよう、陽日。」


「じゃぁってのは余計だけど、まっ、良いですよ。解放します。」



いや、だからさぁ、その顔を赤らめながら言うの止めてよね。


調子狂っちゃう。


「言っとくけど、社内では例の話は秘密よ。人がいる時は名前を呼ぶのも気をつけて。良いわね?」


去っていく彼の後ろ姿に叫ぶと


「分かってます。二人だけの秘密ってやつですね。」


そう言うと駆け足でフロアから出ていった。


な、なによ……


なにが二人だけの秘密よ


耳まで赤くしちゃって……


やっぱり根はそんなに悪いやつではないのかもーーーー


いや、これに騙されちゃダメよ。


兎に角、暫定であろうが、彼氏だなんて噂が広がったらただ事では済まない。


しっかりしなさい、沙紀!













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