暫定彼氏〜本気にさせないで〜
その事実を聞いても藤枝さんを責める気にはならなかった。


本当なら修羅場の一つくらいあったっておかしくない話だ。


好きで好きで付き合った人に婚約者がいたなんて……。


一層の事、私とは単なる遊びだったって言ってもらった方がどれだけ楽だっただろう。


そうすれば泣き叫んで気持ちを全部ぶつけれたのかもしれない。


だけどーーー


私は何も出来なかった。


婚約者から藤枝さんを奪うことも藤枝さんを責めることも。


どうしてかって言うと


藤枝さんが苦しんでいるのが分かっていたから。


一緒に居れば居るほど、彼が思い詰めているのが分かっていたから。


分かっていたのに……。


だから、私も同罪。


藤枝さんはもう少し早くに君と出会えていたなら……って言ってくれた。


それで十分だった。


その言葉だけで私は救われた。


私達の関係が終わった時、藤枝さんは系列会社に出向に出た。


詳しい事は知らないけれど出向について前々から会社に相談していたらしい。


私自身も一時は会社を辞めようかとも考えたけど、辞めて実家に帰る勇気もなかったし、会社自体に不満は無かったから。


ただ、平気な顔して会社に来る勇気も私には無かった。


それは藤枝さんも同じ思いだったんだろうと思う。


だから藤枝さんが会社からいなくなって正直、ホッとした。










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