暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「ねぇ、何もなかったような顔して、よく食べてられるわね。」


隣で黙々と本日の日替わり定食を食べる陽日。


「何もって、別に何も無いじゃないですか。それとも、何かした方が良かった?」


と、言いながらグッとこちらをのぞき込んでくる。


「ちょ、ちょっと近いよ。そもそも、あんたさっき、私の事、名前で呼ぼうとしたでしょ?」


陽日との距離を取りながら反撃する。


そんなねぇ、顔近づけられたくらいでこっちはイチイチ動揺しないんだから。


「呼んじゃダメなんですか?」


「はぁ?ダメに決まってんじゃない。」


「なんで?」


「なんでって…誤解されるじゃない。」


「誤解って?」


「私とあんたが付き合ってるって勘違いされるじゃないのよ。」


もし陽日が暫定とはいえ私の彼氏だと志賀が知ったら、なんて言われるやら。


若いのをそそのかしてだとか何だとか……想像するだけで恐ろしい。


なのにーーーー


「誤解も何も、俺、彼氏じゃないですか、沙紀さんの。」


「ちょっと、もう少し声小さめでお願い。」


それでなくても、志賀が先に行ってしまったお陰で二人きりになった為、段々と私達の方に周りの視線が集まっている。


「そんなに言うんなら俺達付き合ってるってここで叫びますよ。そしたらもうこそこそしなくていいでしょ?」


と飛び切り穏やかな笑顔で何とも恐ろしい事を、目の前のイケメンが言う。


「ほんと、勘弁してよ。それに付き合ってるって言っても暫定だからね。兎に角、今朝、お願いしたじゃない?社内では私達の事、秘密にしてって。」


「そうでしたっけ?」


腹立つ〜、とぼけちゃって。


やっぱりね。


こんなさぁ、顔も良くて仕事も出来ておまけに性格も良くて……なんて人、この世にはいないのよっ!


ああ、腹立つ!


こうなりゃ、皆がいるところで絶対に本性暴いてやるんだから。


覚えておきなさいっ!






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