暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「じゃあ、週末デートしたい。」


「はあ?」


「そんなに驚くことじゃないでしょ?俺達、付き合ってるんだし。」


いや、暫定でしょ?


とはとてもじゃないけど言えない……。


返事に困っていると


「へぇ……戸田原沙紀さんは俺と遊びで寝たーーー」「ちょっとーっ!」


「なんですか?大きい声で。耳痛いじゃないですか。」


「ご、ごめん。でも周りに聞こえるじゃないのよ。誤解されるじゃない。」


「えー、なにそれ、事実じゃないですか。俺達、同じベッドで朝まで寝ましたよね?」


はぁ……やはりコイツかなりの腹黒だわ。


「分かったって。もう降参。週末、デートね。了解。」


「遊園地。」


「えっ?」


「遊園地行きたい。」


この年で遊園地とかって……微妙なんどけなぁ……でも言い返す勇気がない。


「良いわよ、遊園地ね。」


「お弁当付きで。」


「はぁ?」


「お弁当、作ってきてくださいね。俺、好き嫌いありませんから。」


「ちょっと本気?何か適当に買って食べれば良いじゃない?」


「やだ。お弁当食べたい。」


子供かっ。


しゃあないなぁ。


「良いわよ、作りゃあ良いんでしょ。」


「お願いします。」


「ねぇ、まだ残業?」


なんだかんだでもう9時過ぎている。


「心配してくれるんですか?」


「心配って、こんな時間だし。」


「ちょっとミスってそれでまぁ遅くなったんですけどね。実はもうフロアに人なんて俺以外にいませんよ。」


「なんだ、そうなの?もぉ、先に言ってよ。て言うか、あんたみたいな優秀な人でもミスするんだ。」


意外。


「人をなんだと思ってるんですか?ミスくらいしますよ。それとあんたじゃなくて陽日。」


「ああ……陽日ね。」


「沙紀さん……。」


「ん?」


「こうして沙紀さんの声聞いてると落ち着く。もう少しがんばれそうな気がしてきた。」









な、なによ。


急に素直になっちゃって。


「そ、そう?じゃあ、もうひと頑張りして早く帰りなさい。」


きっと電話の向こうで顔を赤くしている陽日の顔が目に浮かぶ。


「うん。頑張ります。だから好きって言って?」


「はぁ?調子に乗るんじゃないっ!切るわよっ!」


スマホを切った。


電話での会話を強制終了させたものの、久しぶりのこの感じにこそばゆい気がする。


仕事を終えて帰宅して誰かとこんな風に電話で話すなんて……久しぶりだな。


よーし、お風呂に浸かりながら、お弁当のメニューでも考えるかっ!


妙に張り切る私がいた。








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