暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「はぁ……なんか疲れたね。」


「沙紀さん、ずっと大きな声だしてたもんね。」


「でも見つかってよかったぁ。」


「そうだね。」






あれから私達はちょっと落ち着こうと観覧車に乗った。


こういうのも久しぶりだな。


ん?


どうもさっきから外をボーっと眺めては心ここにあらずな陽日。


しかもいつの間にやら私にもタメ語だし。


「首とか大丈夫?ほら、あの子結構、重かったでしょ?」


「ああ……そうだね…。ねぇ?」


「なに?」


「そっちにいっていい?て言うか行くね。」


そう言いながら向かい側から私の隣に座る陽日。


動くとゴンドラが少し揺れて怖い。


「沙紀さん、怖いの?」


「な、なにが?」


「だって顔、引きつってるよ。」


「そ、そう?気、気のせいよ。」


実は少しだけ高い所が苦手だったりする。


なのにこういう観覧車とかは乗りたくなっちゃうんだよね。


まさに何とかは高い所が好き、みたいな。


「無理しちゃって。」


そう言いながら私の手を取る陽日。


ギュッと繋がれた手は陽日の膝に置かれーーー


「ちょっと、手。本当にそんなに怖くないから。大丈夫だって。」


「手、繋いじゃダメなの?」


いや、ダメってわけじゃないけどさぁ……でも確かにちょっと落ち着く。


「ねぇ、あんたこそ大丈夫?さっきから様子変だよ。」


手は繋いだままでもやはり顔は外を向いている陽日。


「ごめん、ちょっとボーっとしてた。」


「ボーっとって何かあった?」


「何かって言うか…昔ね、俺も遊園地で迷子になった事あるんだ。」


「そうなの?さっきので思い出した?」


「うん、ちょっとね。」


「その時は直ぐに見つけて貰えたの?」


「うんまぁね。」


「良かったじゃない。子供の頃の迷子の記憶っていつまでも残ってたりするもんね。だけどお父さんに叱られたでしょ、ハルキくんみたいに。」


ハルキくんのお父さんははハルキくんを見つけると強く叱った。だけど直ぐ我が子を抱きしめると口では強気な事を言っていたハルキくんも抱きついて少し泣いた。


ご両親はハルキくんが居なくなって相当、心配したに違いない。


抱き合う親子を見ているとそんな風に感じた。


迷子になるとみんなそんなもんなんだろうなって思ってたから。


私だって幼い頃、迷子になる度に親に叱られてたから………。


「ううん、怒られないよ。俺を迎えに来たの父親の秘書だから。」


意外な答えにどう反応していいのか、分からなかった。


ただ、繋がれたままの陽日の手に少し力が入った事はよく分かった。







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