暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「秘書って?」


「うん、秘書。父親のね。」


「でもお父さん達も探してたんでしょ?」


よく話が見えないまま問いかける。


だって普通は親も当然探すでしょ?


「いや、父親は俺が迷子になってる間に先に帰ってた。仕事があったからね。」


「そんな……どうしても急ぎのお仕事があったからかな?」


「違うよ。いつだってそうなんだ、あの人は。遊園地に連れてきてくれたのも仕事絡みだし。」


「仕事絡み…。」


「そっ。だから俺はずっと秘書と色んな乗り物周ってた。その間、父親はずっとベンチで書類に目を通してんの。バカみたいだろ?こんなとこでそんなことしてる人いないよ。」


「そうだね、怪しいよ。」


いつだって穏やかな顔で笑顔を絶やさない陽日。


今だってもちろん穏やかな顔で私に話してくれている。


だけど今にも泣きそうに見えるのはーーー


ううん、泣いているように見えるのはーーー


きっと、その時、泣けなかったんだよね。


本当は不安で仕方無かったのに、大きな声で泣き叫びたかったのに、出来なかったんだろうな。


そんな風に思えるのは繋いだ手から伝わってくる陽日の体温のせいだろうか。


私は繋がれた手とは反対の手で陽日をそっと抱き寄せると


「寂しかったんだね。よく頑張ったね。」


って背中をトントンしながら言った。


すると陽日は一瞬、驚いたけど


「ごめん……少しだけこうさせて。」


私の肩に頭を預けてきた。


私の心の奥深くで何かが湧きあがりそうになるのを私は気づかないふりした。








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