暫定彼氏〜本気にさせないで〜
志賀のメールによるとこの辺り……


げっ、このお店?


ここって前に陽日と来たところじゃん。


あの後、志賀から届いたメールには待ち合わせ場所が書いてあり、何となく聞いた事のある店の名前だなぁって思っていたけど。


まさか、ここだとはね。


志賀との約束の時間まで空きがあったから少しブラブラとショッピングでもって思ってたら、結構ギリギリになってしまった。


もう来てるかな?


恐る恐る店に入るとカウンター席に志賀の姿が……。


いらっしゃいませと近付いてくる店員を制してカウンターに座る志賀の元へと行く。


「遅いっ。」


「えへ、ごめん待った?って言うか営業マンがそんなに早く仕事終えていいわけ?取り敢えず、生中一つ。」


後半の言葉はオーダーを取りに来た店員に向けて言う。


「今日は直帰なの。今日も一日、十分過ぎるほど働いたっつーの。」


注文したビールは直ぐに用意されて取り敢えずジョッキを合わせる。


ふぅ、やはりこの一杯の為に一日頑張れるよね。


「で、なんでわざわざ呼び出したわけ?」


「ああ……悪い。もうちょっと酒が入ってからの方がいいかもしんねぇ話なんだけどさぁ。」


いつもと違って歯切れの悪い志賀。


「なによ、勿体ぶらずに言ってよ。」








少しの沈黙があってから志賀が言った。


「お前、藤枝さんの事、もう何とも思ってないんだよな?」


「な、なによ。いきなり何でそんな事言うのよ。」


「だから、どうなんだよ。」


「どうって……。」


「やっぱりまだ未練あるのか?」


あの朝の藤枝さんを思い浮かべるとやっぱり胸が少しだけ苦しくなる。


だけどーーーー


「ううん。未練とかはない。」


「本当か?」


「そりゃ、確かにまたうちに戻ってきて動揺はしてるよ、正直ね。だけど昔みたいな思いとは違うと思うんだ……私の中ではもう終ったことなんだもの。」


その言葉に嘘はない。


確かにこの前の朝の様に、話したり名前で呼ばれたりすれば、やはり胸が苦しくなる。


だけど、それは進行形の思いなんじゃなくて過去の私の思いが一時的にそうさせているもの。


だと、思いたい。







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