暫定彼氏〜本気にさせないで〜
藤枝さんが婚約者の話を私にしたのは、私達が一線を越え付き合うようになって約一年が経とうとしていた時。


とても苦しそうにその話をしてくれた。


何となく一緒にいる時に時折苦しそうにしている藤枝さんを見ていて私も、もしかしてとうっすら感づいていたから、話を聞いてもそれほど驚きはしなかった。


やっぱりそうなんだって。


藤枝さんは自分が原因で一生の怪我を追わせてしまった婚約者がいるんだって言った。


だから、婚約者を見放す訳にはいかない。


私との関係もずっと続ける事もできないと。


ただ、君ともっと早くに出会えていたなら…って。


隣に志賀が座っているにも関わらず、あの当時の事を思い出す。


あんなにも思い詰めてまで守ろうとしていた婚約者と最終的には離婚って……。


一体、何があったんだろう。


「おい、おいって。」


「えっ、ああ…ごめん、ボーッとしてた。」


「俺、やっぱり余計な事、言ったかな?」


「なんで?」


「動揺してるから。」


「してないよ。ただちょっと思い出してたっていうか……何でなんだろうって単に思うだけだよ。」


「そっか。なら良いんだけど。どの道、遅かれ早かれ離婚の噂を耳にするなら、俺から先に言ってやった方が良いかなって、思ったんだ。まぁ、お節介だけどな。」


「ううん、教えてもらって良かった。違う形で聞いてたらもっと戸惑ったと思う。ありがとね。」


いつもはふざけてばかりだけど今回は素直にお礼を言う。


「いや、まぁ、俺もって言うか……俺が気になってたからさ。」


「藤枝さんのこと?えっ……もしかして、志賀ってそっち系のーーー」


「アホか。俺はノーマルだっ!」


志賀の声が店内に響き一瞬、しぃ〜んとなるものの、何事もなかったかのようにまた店内は賑やかになる。


















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