嫌いになりたい
「いいよ」


「女に払わすの、俺の趣味じゃない」


「また月曜でいいって」


「そんなこと言って、月曜じゃ受け取らねーだろ」


酔っ払ってるくせに、そんなところはキッチリしてるんだから…


「いいってば」


「だから、俺がよくねーの」


コートのポケットにお金をねじ込まれた


「もぉっ」


「おー、タクシー」


永野くんが右手を上げると『空車』と表示されたタクシーがこちらに気付き、ハザードランプを点滅させながら目の前に停まる


「今日は悪かったな」


「…ん」


「んじゃ、おやすみ」


タクシーに乗り込んだ彼が笑顔で手を振ると、扉が閉まり静かに走り出した


永野くん…本当に酔っ払ってた?


確かに千鳥足で、お店の中からここに来るまで20分は掛かった

普通に歩けば5分も掛からない距離


でもお店で喋ってた時と違って、受け答えもハッキリしてたし…

むしろ、いつもと変わらない


ポケットに手を突っ込んでみる

クシャクシャになった一万円札が、ポケットの中で寂しげな音を立てた
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