嫌いになりたい
忘れようと思っても忘れられない

だけど、思い出したくもない過去

あの時のことが鮮明に思い出されたのは、サクと関係を結んだから?


「誰にでも、人に言えないことや言いたくないことの一つや二つはあるんじゃない?」


頭の上から落ちてくるサクの言葉に、意識が引き戻された

あたしの髪に手を差し入れ、子供をあやすように優しく梳き流す


「サクにもあるの?」


「あるよ」


だけど、それ以上口を開こうとしない


「………そっ…か」


なぜか胸が苦しくて

目の奥の方が熱くなるのを、ギュッと堪えた


「トラウマあるのに、こんなことして大丈夫だった?」


気遣うように首を傾げられる


サクと結ばれている間、健太に抱いたような嫌悪感も恐怖もなくて


「サクとは平気」


そう言うと、おでこや鼻、頬、唇へとキスを落とされた


「んっ…」


触れるか触れないぐらいの感触がくすぐったくて身をよじる

あの時健太にしてほしかったのは、こういうことだったのに


それを言えなかったあたしが悪かったのか

自分の快楽を優先させる健太が悪かったのか


今となっては、もう分からない
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