ナナ色Heart
雨もこういう時には、便利なんだね。

涙拭かなくていい。

30分後、あたしは家に着いた。

……正確には、着きそうだった。

最後の角を曲がれば。

けど、曲がりかけた角であたしは足を止め、そのままそっとバックした。

家の前に、山内君がいたの。

どうしよう。

けど、彼は凄く濡れていて、あたしはやむなく角を曲がって声をかけたの。

「山内君」

彼は塀に身を預けていたけど、あたしの声を聞き、弾かれたようにこっちを見た。

「とりあえず、入って。体、拭かないと」

あたしがそう言って鍵を取りだし、ドアを開けると、彼は苦しげな表情のままで中に入ってきたの。
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