ナナ色Heart
もう、やめて。

言えないの。

『パパは私に凄く甘いの。あたしの一言で、玲哉の恋人ひとりくらい、どうにでもなるのよ』

有紗さんの、呪いのような言葉がよみがえる。

怖い。

あたしは顔をそむけた。

喉が、まるで鉛を詰められたように重くて痛い。

「山内君……ごめん」

山内君が息を飲んだ。

「愛……してたよ」

愛してる。

ほんとは、今も。

山内君は掠れた声で言った。

「……過去形……かよ」

彼があたしからスッと離れて空気が動くと、雨に濡れた体がヒヤリとした。

「バイバイ、ナナ。愛してるよ」
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