ナナ色Heart
そう言ってそっと離れると、彼はあたしの取りたかった本に手を伸ばし、それを手に取ると、あたしに差し出した。

「ありがとう……」

胸に込み上げた切なさと悲しみとで、あたしの声は掠れて小さかった。

彼はそんなあたしを優しい眼差しで見てから、

「じゃあな」

あたしは詩集を抱き締めたまま、彼の去った入り口を暫く見つめた。

……行かなきゃ……。

ようやく図書室を出て、病院へと向かう頃、玲哉君からラインがきた。

『あたしのが先に着くかも』

手早くラインを返してから、あたしは歩き出した。

真朝さんの病室は、6階にある。
< 221 / 339 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop