オフィスの華には毒がある
「好きな人は、いないよ」


強めに言うことで、主任の残像を振り払う。
今更だけど、あのとき落とした眼鏡はあれからちゃんと拾えたんだろうか。

あのときの事を、主任はどう思っているんだろう。


「じゃあ……1日だけ俺と過ごしてくれませんか?」


懇願するような斉木くんの声で我にかえる。

いやマジで、今妄想してる場合じゃないでしょ……


「い、1日?」


「1日だけ、一緒に過ごしてください。それから、どうするか決めてもらって……絶対楽しい1日にします、無駄にはさせません」


不思議な生物を見る目で見つめてしまう。


……すごいなぁ。
どうやったら、そんな自信が沸き起こるんだろう。
自分と過ごして、楽しい1日にさせるなんて、口が裂けても言えないよ。


無駄にさせないなんて、よく言えるよね……。

感心してしまう。
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