オフィスの華には毒がある
***

「センパーイ、ありました?シトラスソーダ!」


環の声で、ハッと我にかえる。


「なに……シトラス……?」


思わず聞き返したわたしを、環が信じられない、という表情で覗きこむ。


「先輩、ここでも飲めるのにわざわざコーヒー買いに行くって言うから、それじゃついでにってシトラスソーダお願いしたじゃないですか!」


……あ。言われたかも。て言うかわたしから、ついでに何か買ってくるよーなんて言ったかも。

「……あーごめん。忘れてた」


んもー、そこで全種類売り切れだった、みたいなしょーもない嘘をつかない先輩が好き、とかなんとか言って、周囲の笑いを誘っている環。


忘れちゃうよ、そりゃ。


あんな話を聞いちゃ……って。やめて。

思い出したら、泣いちゃうじゃん。


茶渋ババア、職場で涙。

いやいやいやいや、しゃれにならない。惨めすぎて、それこそ涙が出るっつーの。
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