オフィスの華には毒がある
「…………」


至近距離にいるのに、ていうか、自分から話しかけておいてシカトですかそうですか。


そんな非難めいた気持ちを込めつつ、ちらり、と見ると、フェロモンさん(勝手に命名)は言葉こそ発していないものの、顔に思いっきり
『決まってんじゃん、バカなの?』
と書いてあって。



知らないし。
嶋本主任がナオヤサンだかヤオヤサンだか、そんなことに興味を持ったことありませんので。

言ってやりたいけど、言えない。


基本、ケバい女の人はなんとなく怖い小心者なわたし。


「い、ま、せ、ん、か?」

ゆっくりと、でもバカにしている気持ちを包み隠さずアピールしながらフェロモンさんが話しかけてくる。
トントントン、とかカウンターを叩く爪にも、ハデなネイルがばっちりしてあって。


心の中では同じトーンで
「い、ま、せ、ん、よ」と返しつつも、そこは一般的な常識を持ち合わせた社会人であるわたし。


「確認してきますね」


言い残してその場を去る。
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