藤くんが今日も冷たい件について(仮)【完】
「………」


「ねぇ、藤くん…」


「………」


「藤くん…」



藤くんは目線を本から写すこともなくページが捲られる音だけが室内に響き渡る。


そして私はその沈黙に耐えきれず自分の首を絞める一言を言ってしまった。



「……やっぱり佐伯さんなんだ」


「だったらどうなの?」



藤くんは食い気味にようやく口を開いてくれたが、それは私にとっては最も残酷な一言だった。


何となく藤くんは佐伯さんに票を入れたのではないかという予感はしていた。


けれど、自分の不明票が残り一票分あったために、微かに期待をしていた自分がいたのも事実だった。


しかし、このような形で真実に直面すると胸が何か尖ったもので刺されたかのようにチクリと痛くなった。


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