elevator_girl
「リョーコちゃん、珊瑚模様のストラップ持ってた」と、深町。
「そう?なんか高そうだね」と、僕。
「15万円」
「どうして...あ、サン×ゴ=ジューゴか!ワハハ、古いな~それ」
僕等は、なんだかいつまでも笑っていたいような気持ちだった。
翌日は雨だった。
昨日、ライブした駅前も
今朝は、打って変わって無機的に人が流れていくだけだ。
どこかへ向かっていくのだろう。けれど、皆無表情に歩いている。
日曜日の華やかな、楽しそうな雰囲気と違っていて
これが同じ場所なのだろうかと僕は思った。
地下道へ下る、昨日より掛かったタイルの壁を見、ふと触れてみたくなる。
が、触れても今朝は、それすら無機的な冷たさ、と感じてしまう
モノ・クロオムの写真のようだ。
でも、僕の気持ちは昨日から、はしゃいでいる子供のようだ。
何かが変わった訳じゃない。見ている景色はいつもの月曜なのに
そんな、無機的な景色なのに、心の中だけは暖かい。
胸の奥に、光が宿っているかのようだ....。
僕は、軽い足取りで地下道を下り、国道の向かいにある
丘の上キャンパス行きの直通バス乗り場に向かった。
時間がまだ早いせいか、バス乗り場にいるのは1年生ばかりだ。
1年生は、教養過程の講義があるのでこんな時間から出なくてはならない。
なぜ、3年の僕がこんな時間に出るのか?ちょっと、大学の図書館で探し物があったからだ。
「柳先輩。」
バスを待っていた列の中ほどから、可愛らしい声がして僕ははっ、とする。
この声は.....。
そう、1年の夏名ちゃん。軽音楽サークルに入ってきた子だったっけな。
小柄でよく弾む声、丸顔で色白。よく笑う可愛らしい子で
サークルでとても人気の子だった。文系らしく
いつも、何か文庫本を持っている子だった。
「ああ、カナちゃんおはよ。」