elevator_girl
木ねじを捻るような音がして、軽そうにエンジンが始動する。
アイドリングしていると、それほど騒々しくはないフォード853cエンジンだ。
「外で聞いていると、割と静かなのね」と意外な事に諒子は気づく。
「そうなんです。そこもいいところ。
イギリスは紳士の国ですから。」と深町はにこにこしながらそう言い
クラッチを切ってシフトを1速に入れた。
それじゃ、と右手を上げて、スーパー・7を
ゆっくり、ゆっくりスタートさせた。
手を振りながら、大通りの方へ。
地面を這うようなそのスタイルは、どことなくユーモラスで
愛らしい。
思わず微笑みがこぼれるような....そんな感じ。
見送る諒子の髪を、初夏の風が爽やかに揺らした。
大通りに出たスーパー・7の排気音が聞こえる。
生き生きと加速しているその音は楽しげで
音楽的だった。
エンジンが生きているようだ、と言う深町の言葉が
手に取るように実感できるサウンドだった。