elevator_girl

木ねじを捻るような音がして、軽そうにエンジンが始動する。
アイドリングしていると、それほど騒々しくはないフォード853cエンジンだ。

「外で聞いていると、割と静かなのね」と意外な事に諒子は気づく。

「そうなんです。そこもいいところ。
イギリスは紳士の国ですから。」と深町はにこにこしながらそう言い

クラッチを切ってシフトを1速に入れた。


それじゃ、と右手を上げて、スーパー・7を
ゆっくり、ゆっくりスタートさせた。

手を振りながら、大通りの方へ。

地面を這うようなそのスタイルは、どことなくユーモラスで
愛らしい。

思わず微笑みがこぼれるような....そんな感じ。


見送る諒子の髪を、初夏の風が爽やかに揺らした。



大通りに出たスーパー・7の排気音が聞こえる。
生き生きと加速しているその音は楽しげで
音楽的だった。

エンジンが生きているようだ、と言う深町の言葉が
手に取るように実感できるサウンドだった。

< 144 / 213 >

この作品をシェア

pagetop