elevator_girl
一方、松之は
駅前から第一国道を東に向かい、南北大通りを
南に折れるバスに、夏名と二人で乗っていた。
「あら...?」
夏名は、バスの後方座席、通路に伏せている
盲導犬の存在に気づいた。
すこし疲れた表情のその犬は、短い毛の
ラブラドールだった。
床板を、長い舌で舐めている。
「すみません、あの....。」と、
夏名は、ふくよかな微笑みで
盲導犬を率いていた、白髪の老婦人に声を掛けた。
「おなか、空かしてるみたいですよ、ワンちゃん。」
にこやかに微笑みながら、背負っていたリュックから
小さな蒸しパンのような、ラップされたそれを取り出して
犬の鼻先に差し出した。
犬は、静かに蒸しパンをくわえて
もぐもぐ、と一口で食べてしまった。