elevator_girl

ボディ全体が舗道に平行に。
縁石との間隙はぴたりと。
ヴェテラン運転士らしい、寸分違わぬプロの技だ。
床から生えている機械式のサイド・ブレーキを引き
だが、運転士はブレーキ・ペダルを踏んだまま。
乗客が降りるまでは、ブレーキから足を外さないのがルールだ。
万が一、転動した時に措置を行う為である。

乗客の誰もが気づかない、この措置があるから
バスを降りる時、車体が揺れずに安心して降りる事が出来るのだが
その事は当然な事、とされて
それに気づくものは少ない。

当たり前のような思いやり、それに似ているような気がする。
気づかないようなさりげない行為が、本当の優しさ、愛なのだ。



深町は、運転士に礼を言う。
ありがとうございます、と。
なぜか、そう言ってしまうのは...やはり血筋だろうか。
彼の父方は鉄道員の一家だったから、なのだ。

思えば、深町が愛他的なのはその血筋なのかもしれない。
誰かの為に何かをするのが好きで
誰かが、喜んでくれるのが好きなのだ。

だから......。
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