elevator_girl
バスは割と空いていた。
夏名はそれでも車内をさっ、と見渡して「あ、先輩!あそこ空いてますよ。」
とことことこ...と、空席に向かって小気味良く。
ちょこん、と腰掛けて、松之が来るのを待っている。
可愛いな、と、松之は思う。
でも、どことなく違和感を禁じえなかった。それは、彼なりの秩序感覚のようなものだろう。
現在では、夏名のように自由に競争して席を得るのが普通になっている。
でも....
彼、柳松之の祖先は中国で代々栄えた階級の出である。当時は劉、と名乗っていた。
そういう土着感覚があるのだろう。席、のような些細な事で争う事には馴染めなかった。
...もし、リョーコさんなら....
やはり、泰然と振舞うだろう、もちろん、空いていたら着席するだろうけれど
誰か、困っている人に席を譲ってあげるのではないだろうか。
と、無意識に彼は、桜花舞う中で出会った昨日の事を思い出している。
無論、これは彼の空想であるし、夏名とて、やはり困っている人が居たら席を譲るだろう。
好意を持って想う人と同じでありたいと思う同化の感覚である。
...そう言うところが稀有なのだろう。でも...
リョーコさんのような人は不利益を被る事が多いのではないかな?
そう松之は思う、そして、若々しい自負と開拓精神とが混じったような感覚で
決意を新たにする。
法秩序を司る人になろう。困っている人を法律で守ろう。