elevator_girl
夏名は、なんとなく、言葉を反芻した。
まだ、納得できない表情。
深町は、なおも続ける。
「百万本の薔薇、って歌、知ってる?」と深町は言う。
夏名は頷く。
「あの絵描きがさ、貧乏してたのに百万本の薔薇を
女優に贈った。女優は、感動しながらも、その好意に
応えずに次の街に行ってしまった。絵描きはそれを思い出にした..。」
夏名は、頷きながら聞いている。
「女優はさ、そういう好意を受ける事に慣れちゃって
それがどんなにか尊い気持ちかって分からないのさ。
当然のように愛されてるとね、慣れちゃうものなんだよ。
薔薇の立場にたってごらん?
本当にお花が好きな人が、野に咲く薔薇を
愛しいな、かわいいな、と言って見てくれる筈だったのに
人間の都合で、百万本も切られて。しかも
そんなに尊い命を捧げたのに、その女優はさほどにも思っていない...
そういうもんなんだよ。慣れって。
この女優が悪い訳じゃなくて、そういうものなんだ。
だから、俺は....」
深町は歩みを止めて、夏名をじっと見た。