elevator_girl
....もう、春も終わるのかな.....。


深町は、想う。昨日の出会いの事を。


風に舞う桜の花弁、散り.....
愛らしい色合いに水面を染めて。


人の夢、と書く儚い、と云う文字のイメージを思わせるような...と考えた。
華やかに、誇らしくもあり、ひととき、咲き誇る桜の花。
雨がひとたび降るくらいで、はらはらと散って行く.....。


さくら、そのイメージを深町はそこで出会った彼女にオーヴァー・ラップさせていた。



....なんとなく、たおやかで。
ちょっと、守ってあげたくなるような感じなんだよな....。



別段、淋しげに見えるとか、憂っている、と言う訳ではないのだけれど。



深町は、また想いに耽る。
その想いが、どういう種類の感情なのか深く考えもせず。
考えていく事が、より想いを深くして行く、と言う事にも気づかず。





「あら、シュウちゃん、学校いかないの?」

叔父さんの妻、つまり、この家の現在の主人。深町・シュウは「伯母さん」と呼んでいるが
その呼称が不似合いに思えるほど、若々しい声で彼女は深町に、こう促す。




「あ、おばさん、おはよ。今日は講義、遅いんだ」


と、深町は耽っていたのを邪魔されたような気分になっていて、ちょっと乱暴に応えて。


伯母さんは、にこやかに「そう、なんか食べてく?」と。



でも、深町はひとりですこし耽りたかったのか「ううん、いいよ、ありがと」と。


伯母は、何も語らずに廊下を音もなく歩いて、玄関の方へと消えた。

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