elevator_girl
路地を静かに走りだし、この町を東西に走っている大通りを東に向かう。
区役所前を通りすぎたあたりでスロットルをフル・オープンにする。
すこしウェットな路面で後輪が左に流れたが、構わず体でバランスをとる。
前輪が浮き気味になるので上体を伏せる。レヴ・カウンターが10000を示す。
矢継ぎ早にシフト・アップし、商業高校の前の緩い右コーナーをそのまま抜けていく。
雨は上がりかけていた。





深町とRZV500Rは、上がりかけた雨の街を東進、大通りと交差すると北進した。
広い都市計画道路で、目一杯加速してエンジンの音を楽しむ。それが彼の楽しみのひとつ。
一気にギアを2速まで落としてフル加速すると、長い猫の鳴き声のようなエンジンの音は
甲高く、それはあたかも天上の音楽のように深町には感じられた。
天使の衣擦れ、愛声....などと言う月並みなフレーズが彼の脳裏に浮かぶ。


....やっぱり、言葉は松之に任せておかないとな(笑)
深町は、音に浮かんだイメージを言葉にする事が、そもそも間違いだと気付いた。
自分は、やはり音、をイメージするように出来ている。そういう人間なのだ。

ギアを3速に上げると、流石に速度が高くなりすぎたのでスロットルを戻し、4速へ。

遠くの信号が赤、に変わったので、シフト・ダウン....。

大学へは、右折しなくてはならない。右折レーンへ移り、停止した。
交差点の向こうを、古ぼけた海老茶と白のバスが、丘の上キャンパスに向けて
のんびりと走り去った。

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