elevator_girl

「驚いたな...」松之は、我に返る。
さっきまでの甘い感覚などどこかに飛び去ってしまった。



「はい...まだ、どきどきしてます。でも、無事でよかったです」
夏名も安堵のため息を漏らす。おそらく、本当に息が止まったような思いだったろう。



「まったく、乱暴なやつだよ、シュウは」
松之は、無事を喜ぶ気持ちを、やや屈折した表現で夏名に告げた。



夏名は、その松之の言葉をどう理解したのか
「普段は優しいのに、深町さん」と、答えた。
先輩、と呼称せず深町さん、と。
緊張から解放された為か口調が砕けたことに気づき、夏名は
すこし慌てたように「あ、でもサークルの大切な先輩。」と付加した。

そんなに気にしなくてもいいのにな、と松之は思う。
僕らにだけは気なんか使わなくてもいいのに、と言ったとしても
それもかえって気を遣わせるかな、と思い松之は
その言葉を発する事を控えた。




バスは終点、丘の上キャンパス停留所で停止。
松之と夏名も、流れに乗って下車した。
バイク・パーキングは、バス停より坂の下にあるので
二人は、深町が坂を登ってくるのを待った。

「....おーい!」
深町は、鷹揚に手を振りながら。ヘルメットを腕に掛けてちょこちょこと歩いてくる。
この歩調と、彼の雰囲気が不釣り合いなところは
なんとなく、特徴的なところだが....
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