elevator_girl
ちょっとおっとりとした松之、でも、結構短距離走は得意。

リードを保ったまま坂道を駈け上がり、丘のサミット、
丁度左右に学生たちが別れていく、そのあたりにさしかかる。

夏名をも勢いで追い越してしまった。
それに構っては居られない。これはレースなんだ。と
松之は、意味もなく興奮気味に思いながら道路を渡り階段を駈け上がり、付属図書館の前の広場に立つ。

夏名は、びっくりとした顔で、駆け抜けて行った松之を見る。次いで、深町がばたばたと駆けて行くのを見て
表情を柔らげる。

松之は、金魚の池の前にある金属製のオブジェ...美術サークルの連中が作った....の前に立ち、振り返る。

丘の上から、街が見える。左手になだらかな海岸線、
遠くに緑深い台地...

「あ。」松之は淡い空間色彩に気づく。

緩やかな、しかし数学的なカーヴを描いたそれは
赤・橙・黄・緑・青・藍・紫....

視線に気付き、階段の途中で深町が振り返り、
そして、ふたりを見上げていた夏名に、告げる。

「ほら、カナちゃん、虹だよ、虹!」
空を指さす。



< 28 / 213 >

この作品をシェア

pagetop