elevator_girl
深町は上背があるが、足は遅い。相反するように
松之は深町よりは少し小柄だが、足は速い。
本気で競争したら勝ち目が無いと深町は思い
まだ、講義が始まっていない理工学棟、
エレベータがいつも1階で待機しているそれに飛び込む。
慌てて、[閉]ボタンを押して。何故か安堵した。
目を閉じて、荒ぶった息を整えた。
やれやれ.....ヘルメットもって走るのは大変だ。

と、束の間の憩い。

エレベータのドアが開く。

あれ?と思った深町は、はた、と気づく。

...行き先階を押していなかった(笑)。

開いたドアの向こうには、不敵な笑顔の松之が。


「あ....!すまんすまん。!悪かった。!ごめん。!」
と、いろいろと弁解した深町。


静かに、松之はエレベータの乗り込み[R]を押した。


登っていくエレベータ。会話なく静かに。
モーターの音だけが響く。

電子チャイムではないサインがキンコン、と鳴り
古いエレベータはメカニカルに扉を開く。


屋上へは、重い鉄扉を開かなくては出られない。
薄暗いエレベータ・ホールを無言で数歩歩き
松之は、錆びた鉄扉を開く。

眩い光。風が吹きぬける。
扉の隙間を虎落笛のように、風鳴りは過ぎて行く。


火照った体にそれは心地よく、深町は親友、松之の怒りを
しばし忘れた。



静かに歩みを進め、ふたりは屋上の真中あたりまで来る。

午前10時。月曜日のこの時間、理工学棟の屋上に来るものは居ない...
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