elevator_girl
「なあ、深町...ひとこと言って置きたいんだけれど。」
意外に冷静な松之の言葉に、深町はすこし安堵した。
「..いや、俺が悪かったんだ。からかったりして。本当に悪かった。すまん。」
と、深町は、松之の怒りを解こうと思った。
「うん、それはいいんだ。お前が本気であんな事言ってるんじゃないのはわかってる。
ただ....。」
「ただ?」
「シュウの憶えてる話しは間違ってるって事。」
「それで怒ってたのか?」深町は意外な展開に、肩透かしを食らったような気分だった。
「ああ、漁師が羽衣を返したのは、天女の事を本当に思っていたから
天上に戻って幸せに暮らしてほしい、そう思っての事なんだ。
表面的な美に心を奪われて、のことじゃない。」
松之は、彼の祖先がそうしていたように、史実や故事などを正確に記憶する。
それはやはり、民族的習慣、とでも言おうか。
江戸っ子、下町育ちの深町には、感覚としては理解できないが
松之の怒る理由は理解できた。