elevator_girl
何もかも、打ち明けた気がして
松之と深町は、すこし無口になって
丘を渡る風に、吹かれていた。
講義が始まるまでには、まだ少し時間がある。
「あ、そうだ、図書館へ行かないと」と
松之が思い出した。それで、深町も一緒に
図書館へ行くことにした。
「なんで、図書館へ?」深町は尋ねる。
もともと、文学部だから本が好きなのは
まあ、自明の理である。でも、松之は
本当に本が好きなようで、他の誰よりも
図書館によく通っていた。
この図書館は大学の付属施設で
公共施設だから、学生ではない利用者も多い。
そのあたりが、パブリック・ドメインな感じがして
その、オープンな感じが深町も気に入っていた。
エレベーターを使って、屋上から下る。
深町は、クスリ、と笑う。
「なに?」と、松之が不思議そうに言うので
「ああ、ほら、さっき、エレベータの扉を閉じて
俺は安心しちゃってさ」と、深町。
「ああ、あの時」と、松之も笑顔になり
そして「あの時のエレベータ-・モニタ-の映像みたいだったね」
深町も、笑顔になる。「ああ、あの時の...なんか、ユーモラスだったけど
素のまま、って感じがして可愛かったな」と、にこにこと。
そうだね、と松之も笑顔になる....。
イマドキめずらしいよな、と、深町は付け加える。
ま、カナちゃんも可愛いけどさ、と、そこまで言って深町は、さっきの夏名の言葉を反芻する。
....死んじゃうかと思った。
そのあたりが、最近の女の子らしく、死、と言う言葉を軽く扱うので
ちょっと、深町にとっては違和感を感じるところだった。