elevator_girl
....たぶん、死、って現象にリアリティが無いんだろうな....。
経験として、死別を経験していると、その言葉に重みがあって
無闇に口走れないものだ。
深町自身、兄を交通事故で無くしているので
それ前後でこの言葉の意味が変わってしまった事を記憶している.....。
.....だとすると、夏名ちゃんは幸せなんだろうな。
そう言う悲しい別れの記憶なく、天真爛漫に喜怒哀楽を、思いのままに表現する。
それも素のまま、と言う事だ。だけれども....。
そうした経験の差異が、言葉をつかって会話する以上、妨げになる事もある。
それもまあ「相性」の一部だろうと深町は、そう感じていた。
もちろんそれは、夏名のせいではない。
相性、なんてものもまた、不条理なものだし
偶発的な要素も多い。
だからこそ、相性の良いひとを大切にすべきだろうと
深町は思う。また、仮に相性が合わなくても
努力すればいい、とも思う。
だから、松之の気持ちを大切にしてあげたいと
深町は考えていた。
そこまで思いこめる相手に出逢えた事が
もう、貴重な事なのだから....と
深町自身は、自らの気持ちはとりあえず
親友を気遣っていた。それも、彼のパーソナリティ。
坂道を横切って、雛壇地の階段を昇り
付属図書館の前で、松之は、ありがとう、と
深町に礼を言った。
よせよ、気持ち悪いなぁ、と深町は照れるが
彼を清々しい気持ちが満たしていた。
松之の背中を見送りながら、「まあ、いつもこういう役回り」と
なんとなく、巡り合せでこうなる自分の事をすこし嘆く深町である。
だから、いつも1歩引き気味なのだ、何に対しても。
それは、おそらくいつも起こるだろう巡り合せの悪さに対する
自己防御でもあった。
そうしておけば、仮にどんなことが起こったとしても
マインドがダメージを受けずに済む。ちょっと淋しい生活の知恵でもあった。
...ま、いっか。
深く考えないようにするのも、彼の防衛でもあった。だから、
成り行きで軽く生きているように見られがちなのだが
本当は、そういう姿勢はあまり好きではない、深町自身であった。