elevator_girl
「うん、ホラ、お前が来た時、丁度あの子が通りかかったんだよ。」と僕が言うと、シュウは

「あの子って?」と、呆けて言うから、僕は


「ほら、こないだのエレベーター・ガールだよ」


「デパートのか?」


「あーもう、ニブいなぁ、あの...。」


「モニターに映ってた子か?」




「わかってるんじゃん」と、僕等はカケアイ漫才みたいに丁丁発止と遣り合っていると
ここはバスターミナルなんで、バスの運転手さんとかコンセルジュのお姉さんとかが
くすくす笑いながら通りすぎて行く。



僕等はちょっと恥かしくなった。楽器を持って漫才してしてるなんて。



同じ事を思ったのか、シュウは
「それ、ピアニカだよな、こないだ中庭で吹いてた。」


「そう。」
.....丘の上にあるぼくらのキャンパスは、傾斜地に立っている。
理工学棟の方の中庭はスロープの途中、峰に近い方にあるので
中庭が階段状になっていて、それで音が広がる。
だから、楽器の練習には丁度よい場所だった。
学食から近く、大学生協の前の、芝生のところが僕のお気に入りだった。


「んでも、ピアニカって随分ツウ好みだよな~」と、シュウは言い
彼は背負っていたフェンダー・ストラトキャスターとミニ・ギターアンプを下ろし
地下道入り口の塀になっているコンクリートに寄りかかった。

僕も寄りかかる。冷たいタイルの感触が心地よい。

その感触に、季節が移ろい行く事を実感する。ついこの間まで、寒い寒いと
僕等は言いながら手を擦りゝ、路上ライブをしていたのに。

今はもう、初夏が近いような.....。

僕はどちらかと言うと、感触、手ざわりのようなイメージを記憶する。
この友人シュウの事も、生成りのコットン、と感じるけれど
それは見た目の印象もそうだけれど、あの、手触りのイメージを連想するんだ。

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