elevator_girl
「どこへ行くんだよ」松之は、また。
「まあ、ふらふらしようよ。」と深町は
フェンダー・ストラトキャスターのソフトケースを
肩から下げたまま。
今日は、袖口が擦れたリーバイスのジーンズ・ジャケット70505、-これも20年もの-を羽織っている。ボトムは同じくリーバイスの、これは505-US。
やはりボロボロだけれども、自分で履き古した
ものらしく、何か思い入れがあるらしく
大切に扱っている様子がよくわかるそれ、を
穿いていた。
そんな様子を見ると、なんとなく
ミュージシャンっぽく見えるから、不思議なものだ。
その深町の後を、松之は重いアコーディオンを
ハード・ケースに入れて抱えているので
少々閉口したが
それでも、歩くことに集中していれば淋しい気持
も紛れたので、そうした。
20分ほど歩いたところだろうか、風に潮の香りが混じりはじめた。
「ああ、海か」と、深町は
ギターを肩から下げたまま、伸びをした。
松之も、アコーディオンを下ろして
潮風を吸った。清々しい思いだった。
歩みを更に進めると、砂混じりの風が吹き付け
松の木が、ちらほらと見え始めた。
ああ、海岸まで着いたんだな、と
ふたり、もう夕刻に近い海岸、砂浜に踏み入れた。
さくさく、と、砂を踏む音がする。
シーズン前の海辺は、静かだ。