elevator_girl
「あの、僕等を覚えてますか?」松之は、やっとの思いで言葉を発したが
声はやや、震えていた。
「はい、あの...いつかの日曜日の。」と、にこやかに答える。
深町は嬉しくなり、「そうです。あの時は合奏をありがとうございます。」と
ややオーバーにお辞儀をする。
砂混じりの風は穏やかになる。もう、夕凪だろうか。
「あ、あの...りょうこさん、でしたよね。」と、松之はまた、すこし遠慮がちに言う。
ハイ、と、意外にはっきりと答えるので、深町は、親友の手助けをしようと...
「どんな字なんですか?あ、僕はふかまち...深い町、Deep- Townですね。
あ、これじゃ字がわからないか...。」と言うと
彼女は楽しそうにくすくすと笑う。そうですね、と言いながら
砂浜に綺麗な指で 諒、子、と記した。
流れる砂がFinger-Paintingsのように、松之には感じられた。
モノ・クロオムの濃淡が、抽象絵画であるかのように。
それは幻想である。しかし、人生のある時期
そうしたromantisizmに囚われるのも大切な事だ.....。