elevator_girl
「あの、僕....手紙が上手に書きたいと思ってるんです」
と、松之はやっとの事で口実を思いついた。

嘘はいけない。そんな風に思っていたが...
でも、その人の事を懸命に思っての事ならば
神様もお許し下さるだろう。

松之は、奇妙な理屈を引き出した。
だが、彼女に愛されたくてついた嘘だったら
それは嘘、と言うよりは..
愛すれば故の行為、だろう....。





「一番短い手紙は、さよなら。
一番長い手紙は、なぜ?
一番嬉しい手紙は、遊びにきてね。
一番楽しい手紙は、ごちそう作って待ってるね。
そして、一番書きたい手紙は..愛しています。」




諒子は、歌うように詩のフレーズを口ずさんだ。
夕空を見上げて。

最後の、愛しています、の言葉に
松之はどっきり、とした。

諒子の声で「愛しています」と聞くと。

それが、自分に言われた言葉でなくても。


同時に思う。諒子さんは、誰にそんな言葉を告げるのだろう?
告げたのだろうか?

不安が、松之の胸を駆け巡る。

「へえ、諒子さんって文学少女なんだ。
?」と、深町がいいタイミングで。

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