elevator_girl
案外にエントランスは広く、深町は驚き
「広いんですね~。なんか.....。」
レトリックに洒落た感覚、しかし
21世紀の感覚で複製した雰囲気とは違う
その時代のリアル・タイムな感じ。
タイル細工は、本当にモザイク・タイルであり
職人がひとつずつ散りばめたものだ。
インスタンスに得られる模様とは趣が異なる。
ステンド・グラスにしても
本当にひとかけらづつ焼成したもので
着色したものとは異なる、深い色合い。
もう暮れてしまった夕暮れ、詩人が「青焼け」と
表現するような色合いの空がまた
そのステンド・グラスを彩っている。
自然と一体になる様は、工芸の域を越え
芸術的な表現、をも思わせた。
「病院の待合室みたいでしょ?」
諒子は、ちょっといたずらっぽく笑う。
そんな表情をすると、いたいけな少女の面影が
見え隠れし、松之はどっきりと胸を焦がした。
「そういえば.....。」
見回すと、エントランスホールは個人宅にしては
とても広い。
重みのある無垢板の西洋間、柿渋色の扉、
真鍮の把っ手、彫り込み片板の硝子...
重厚だ。