elevator_girl
「いえ、もう...時が過ぎていますから。
本当に、お気になさらないでくださいね。」
と、諒子は笑顔を作ったが
やや、ぎこちなさが残り、その事が
深町と松之の胸を打つ。
いつのまにか時刻が流れていた事に深町は気付き
「あ、ずいぶん長居してしまいました。
ごめんなさい。僕らはそろそろ...。」
と、もう少し居たかった風だった松之を連れ
重厚な客間から、席をたつ。
まだ、よろしいでしょう?と軽やかな声に戻った
諒子の問いかけに後ろ髪を引かれつつ
松之と深町は、エントランスに戻る。
もう、暮れてしまった空から、ぼんやりと月明かり。
ステンド・グラスにはその冷涼な光が
昼間の光線とは異なった彩りを与えており
それは、どこか天上の存在であるかのような
神々しさすら感じさせた。
「綺麗ですね....。」深町は思わず感想を。
諒子は、やや笑みを取り戻した表情で
ええ、宵の口にこうして見ると美しいです、と。
その事に、松之は少し安心し、何となく、
ひょい、と今なら言えるかもしれない、と思った。
「あの...僕、何もできないかもしれないけれど。
でも、力になりたいんです!
あなたに、いつも笑顔でいてほしいから。」
と、やっとの事でそこまで言う。
深町は、突然の言葉に驚きを隠せず、
しかし、友の勇気に感心、と言う表情。
諒子も驚いていたが、ゆっくりと柔和な表情に。
それは、あたかも松之の比喩にあるような
天上人の慈愛に満ちた笑み、のようであった。
ただ、言葉を紡げず、ただ、か細い声で
ありがとう、とだけ返した。やや、俯き加減に。