elevator_girl
深町は、さっきよりギター・ケースを重く感じながら
路地を、駅の方向に向かって歩く。

並んで、松之も大儀そうにアコーディオンの
ハード・ケースを背負って歩く。
でも、彼の胸は熱い。

...僕は、あの人を守りたい。守るんだ。
いつも笑顔で居てほしいから。
あの人が幸せなら、それでいい。

青年らしい守護心、それは彼一流の。
大陸的な感覚、言わば、父性的な。


「でも、驚いたな~。松之くん。キミに
あんなことを言う勇気があったとはね。」と、深町は
優しいからかいの言葉で、親友を誉めた。


松之は、返す言葉もなかった。

何と言うか、自然にそういう言葉が出てしまったのだ。
麻の感触を思わせるような諒子。彼女のたおやかさ
そして、どこかしら守ってあげたくなるような愛らしさ。
殊更に主張せずとも、それは、自然と伝わってくるような。

心が、そう言ったんだ。松之は、そう思った。

あれは、心の言葉。無論、それは愛を意味するが
愛他、諒子に本当に幸せになってほしい
と言う願いからの言葉だった。

勿論、自分のことを思ってくれれば嬉しい。でも、それは
諒子にとってそれが最善ならば、と言う条件が絶対だ。と

松之は、そう思っていた。


さっきまでの不安は、霧散していた。


....あの人が、誰を想っていようとも。
好きなままで、好きでいたい。たとえ、届かなくても。


強い決意が、松之を包む。
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