elevator_girl



「何か用だった?」と、松之。

あ、そうだ、と深町は思いだし、
「クワイア・コーラスのさ、ほら、去年もやったコンクール。
あれのメンバーが足りないって。俺も誘われて。
松、出てやれるだろ?今年も」

と、軽い調子で深町は言う。
当然に、松之が軽くOKしてくれると思ったのだ。
だが.....

「いや、今年は...勉強したいんだ。
そうだ、カナちゃん出てあげたら?」と
松之は、軽く夏名に振る。

えー、私なんて駄目ですー、と
半ば嬉しそうな感じで(笑)夏名が返すと

ほら、お揃いの衣装で歌うと可愛いよ、なんて
深町がいつもの調子で言い、夏名も
楽しそうに笑っていたので、その雰囲気で
深町は、聞きたかった事を忘れてしまった。

本当は、その法律への希求の意志を尋ねたかったのだ。
なぜ、法律でなくてはならないのか、を。



もちろん、松之に理由は、ない。
エネルギーが余っていたから、と言う理由だったから、
なのだが。

それは、深町には分からない。
行動には必ず理由があるものだ、と言う
法則からの推測だ。
しかし時として、人間は不可解な行動をする。
エモーション、精神的な力動がそれを行わせるのだ。

不可解、無意味、不条理....
しかし、それを行う事で力動は収まる。
結果がどうであれ、「充足」するのだ。

そして、充足した心は、安定する。
だから、安定を求めての行動であろう、松之のそれは..




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