elevator_girl
すこし空気が淀んだ感じ。
薄暗く、インクの匂いと若干の黴くささ。
雛壇地の中間に建っている
大学付属図書館の閲覧所は
入り口のすぐ前、奥手にある。
細長い、牛乳パックのようだと
学生たちが揶揄するこの図書館が松之は好きだった。
玄関の前にある銀杏の木、
その下のベンチで風の音を聞きながら本を読むのも好きだった。
割と騒々しい事が多い大学構内だが
ここは雛壇地、音が空中に拡散するので、比較的静かだった。
それも、嗜好する理由でもあった。
だから、静かな環境が好き、なのだったが.....
「あ、先輩!なんですか?それ」
夏名が、ちょこちょことやってくる。
周囲には誰も居ない。
図書館吏が事務を行っているだけだ。
だから、夏名もそれを意識して普通の声で話したのだが..
「カナちゃん、図書館は静かにね」
松之は、常識的にそういなす。
しかし、顔は微笑んでいる。
「あ、すみません。...でも、誰もいませんけど?」
そういうあたりは、現代的な感覚だろう。
と、言うよりは
このあたりは、両親の職業の影響も大きいのだろう。
例えば、サラリーマン家庭に生まれた子だったら
この夏名のように、相対的基準によって
行動を測ろうとする。
おそらく、自分の評価が相対価値で決まってしまい
論理的に安定した基準に拠らない、と言う点から
来ているのだろう、と
松之は思う。