elevator_girl

「それはそうと、松さぁ」と、シュウは言う。

「なに?」


「ピアニカ、なんか弾いて見ろよ」


楽しそうに、シュウは言う。



....そうだな....。僕は、ピアニカにソフトホースをつないだ。


それで、息を整えて静かに、一番低いCの音を吹く。


ふーっ。


ブラウする楽器は、なんか、気持ちが伝えやすいような気がする。


C(2)---D-F---G-A---D(3)---C#(3)-C(3)--


と、メロディを吹くと、シュウは、静かにハーモニクスで
F---CC---G--F....とバッキング。


アジムスの「フライ・オーヴァー・ザ・ホライゾン」だ。


雑踏が聞こえない。
楽器の音と、気持ちがつながった。

シュウのギターが、抱きかかえるようにバッキングしてくれる。
メロディは、ふわふわと。


本当に空を飛翔んでいるような気がする。

音と僕等は一体になって。

心地よい浮遊感だけが残る。無限の自由空間にいるような気持ちがする.....。


1コーラス終え、アド・リブパート。


ふと気がつくと、周りに人だかりが出来ていてビックリするけれど、演奏は止めない。
それも、いつものことだ。


コンプレッションの効いたギターが、よく伸びた音でメインのフレーズに戻ると、僕の番だ。

ふと、顔を上げると.....


人垣の向こうに、あの子の姿が見えた。(!)。
通りすがりに、ちょっと覗いてみた、と云う感じだった。
春の風がさらりと髪を靡かせて、ふわふわと所在なげな感じ....



僕は、演奏しながら....イメージを思い起こす。


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