純粋少女と歪んだ魔法
第一章 ~赤い部屋~
私は、壁も床もない空間を走っていた。
ただただ黒いモノの中を走る私。
何かが追いかけてくる訳でもない。
しかし、私は躓いて転んだ。
その瞬間、私のいた空間は歪んで ー
ー 目を覚ました。
白い壁、白い天井、白い床。
さっきまでとは真逆の風景だった。
「大丈夫ですか、うなされてましたよ」
少し太った看護婦が、私に言った。
棒読みだが。
「あ…はい、変な夢を見ただけで。」
看護婦は、私の返答を無視して、病室から出ていった。
ここは、黒くなんてない。
ただ、白い、白いところ。
少し起き上がって、周りを見渡す。
病院の中の、私だけの病室。
それ故に、誰もいない。
私の側に、大きくて複雑な機械が置かれているだけ。
私は近くに置いてあったお茶を少し飲んで、立ち上がった。
濃いオレンジ色の私の前髪が揺れる。
私は病院にいるけれど、体は自由に動かせるし、立つときも支えは全く要らない。
心臓が少し悪いだけだ。
なのに何故、私がこの病室に隔離されているか。
それは、顔の右半分を赤黒いアザが覆っているからの他ならない。
だからこの病棟にいる誰もが、私を忌み嫌った。
そして、私に帰る家など無いのだ。
ペタペタと裸足で廊下を歩いていた。
(エレベーターで屋上にでも行こうかな)
廊下の一番奥にあるエレベーターに手を伸ばしたが。
(あれっ?)
ここは一階だ、地下は無かった筈なのに。
下に行くボタンがあるのだ。
(何があるんだろう?)
面白半分で、下に行くボタンを押した。
エレベーターはもともと使用者が少ないからか、すぐに来た。
髪の後ろ、縛った短い髪を触る。
ゴォ、と音がして、エレベーターは下がっていった。
降りていくエレベーターの窓から、白い猫が見えた気がした。