食人鬼
「失礼しまーす。······あ、伏見先生。」

保健室の扉を開けると、仕事が実に適当な事で有名な髭の生えた保健の教師がいた。

「んぁ?來見か。さっきお前の弟が来てな〜。頭が痛いとかで。」


「えっ?赤月が?」

赤月は元々体が丈夫では無いので不思議ではないが、最近は特にそんな素振りを見せたりはしなかった。


「お前はどうしたんだ?調子悪いなら帰って寝な。」

伏見先生は手をヒラヒラと振り、椅子の上でふんぞり返った。


「········そうします。」

「へっ、お前マジに調子悪いの!?」


「嘘です。熱を測りに来たんです。」


「へ?うーん、面倒くさいから家帰ってから測れ。そいじゃーな。」


背中を押され、手に紙を握らされ、扉を強く閉じられた。

紙を見ると『弟が心配なら今から家帰ってもいいぜ!』

と殴り書きしてあった。どこまでも適当な教師だ。


俺は体調が悪いというわけではないのに学校を早退するというのは不本意だった。

だが、今日は何故か嫌な予感がしていた。
変に胸騒ぎがするし、自分の腹もおかしいのだ。

「·········帰るか。」



教室に戻ると、友人が話しかけてきた。

「秋!やっと見つけた~。ノート見してくれよ~。」


「···優、今日はノートを取ってないんだよ。それから、俺これから帰るから、
自分でちゃんとノートを取っとけよ。」


友達の中田優はかなりの馬鹿でいつも俺にノートを見せてもらっている。


「えっ! そんなの無理だって!ってか秋帰っちゃうの!?何で!?」


「調子が悪いんだよ。それじゃ。」


お馬鹿な友人に適当な嘘をついて、足早に家に帰る事にした。

なんだか分からないが赤月が心配だ。

そんな気がする。


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