印堂 丈一郎の不可解な生活
三日目の昼。

唸り声は聞こえなくなった。

物置を見に行ったお爺ちゃんと、丈一郎のやり取りをこっそり覗き見する。

括られたまま暴れたんだろうか。

椅子に固定されたまま、丈一郎は横倒しになっていた。

顔は汗びっしょり、呼吸も乱れている。

「いかんな丈一郎。呼吸は乱すものではない。吸い込み、吐き出し、調息を練るものだ」

そう言って丈一郎の目の前で、お爺ちゃんは調息を練って見せる。

お爺ちゃんの両掌から、空気の波が広がっていく。

まるで湖面に小石を投げ込むと、波紋が広がるみたいに。

「これが調息。清浄なる生命の波。その清き波は命の根源。聖性は天使の力(テレズマ)と同等。神聖ゆえに不浄なる化け物にも通用する」

お爺ちゃんは横倒しになった丈一郎を起こした。

「呼吸を吸い込み、全身に行き渡るのを意識するのだ。指先、爪先、髪の毛の先にまで意識を集中しろ。その先にある命の根源を感じ取るのだ」

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