印堂 丈一郎の不可解な生活
「さて棺の主」

調息の呼吸で天使の力(テレズマ)を練り上げながら、お爺ちゃんが言う。

「戦いに巻き込まれないように人払いはした。そろそろ出てきたらどうだ?もう何人もの人間の体液を啜り、腹一杯になったのだろう?」

お爺ちゃんには分かっている。

この棺の主の触手が体液を啜っていたのは、『食事』である事が。

眷属である不死者を増やすと同時に、眠りながらにして回復とエネルギーの補充をする。

化け物にとっては一石二鳥の、そして私達人間にとっては忌まわしくも悍ましい行為。

「来ないならば棺ごと、調息で叩き潰してやってもいいのだが?」

練り込んだ調息を、拳に注ぎ込むお爺ちゃんに。

「侮るなよ…枯れ枝のような肉体しか持たぬ老いぼれが…」

棺の中から声がした。

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