印堂 丈一郎の不可解な生活
私が密かにそんな覚悟を決めた時だった。

「失礼する」

骨董品屋の扉が開き、一人の男性が入ってきた。

「あ…ごめんなさい…店は休業中で…」

顔を上げて、力なく答える私。

…入ってきたのは、風変わりな出で立ちの若者だった。

端正な顔立ち。

美形の部類に入るだろう。

だけど身に付けているのは鎖帷子に黒装束、背中には鞘に納められた刀らしき長物。

まるで時代劇に出て来る忍者のような格好だ。

骨董品屋に足繁く通うような客には、こんな変わった格好の人が多いのかな。

思わず失礼にもジロジロ見ていると。

「名乗るのが遅れた」

若者は一礼した。

「以前この骨董品屋の主人から、調息法の手解きを受けた咢(アギト)という者だ…師匠は御在宅か?」

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