白い鳩
学校が、まだ新学期が始まったばかりだからか生徒が多い。
特にこの間まで高校生であっただろう一年生が。
けれど、美大だからなのか1、2浪ぐらいで入ってくる人も少なくない。
たまに年齢不詳の生徒もいるぐらいだ。
「あ、篠崎さん、篠崎碧さん」
ほらね、やっぱり今日は学校にいた。
「なんですか?急にフルネームで呼んで。」
「んー?今日はお願いごとがあるんだよね。」
「嫌です。」
「バイト代もあげます!」
「単位ください、神谷先生。」
「俺は、先生ではないって何度も言ってるでしょー」
油科の棟について最初に声をかけてきたのは、油科の助手である神谷先生・・・
助手だから神谷さんだよっていつも言われるがなぜかいつも神谷先生と呼んでしまうのだ。
そして、一緒に住む皐の同級生でもある。
今年からこの学校で働きに来ることになった、皐と神谷さんは、他の先生よりも若く、人当たりも良い。
そしてなにより、容姿が良いことが人気を呼ぶのだろう。
「それに、皐のことは皐先生って下の名前で呼んでるんだから俺のことも透って呼んでくれればいいのにー」
「呼び捨てでは、呼べないですよ。ともかく、他の人に頼んでください。」
「大学になると、先生って呼ぶ子も少ないのにね。」
皐のことは、口に出すときは皐先生と呼ぶようにしているのだ。
不用心に、近づきすぎないように。
「建築学科の人気先生、雨宮皐と碧ちゃんが一緒に住んでるってみんなが知ったらちょっと騒がれるかもねえ。」
「そういうのずるいですよね。でも、面倒になるのは嫌なので、手伝いますよ。」
「まだ、ここに来たばかりで気軽に頼める人他にいないんだよね。ありがとう!」
なぜか、神谷さんと話していると、いつも神谷さんの調子で進んでしまう気がする。
今日だって、結局手伝わなければいけなくなった。
そしてこの人が、私と皐が一緒に住んでいることを知る、唯一のひとだ。
私と皐との同居について説明するのは、少し面倒である。