白い鳩
とりあえず、自分が働いている『うさぎ』に行くことにした。
みんなうさぎと勝手に呼んでいるが、実際にはオーナーのノブさんが飼っているうさぎのシルエットが看板にあるだけで特にうさぎとお店の名前を決めたわけではないという。
「あれ、碧ちゃん飲みに来たのか。」
お店のドアを開けると、ノブさんがカウンターに立っていた。
このお店は、ノブさんが趣味でやっているお店なのでカウンター席しかなくそれも6、7人座れる程度の小さいお店なのだ。
だから、バーテンは日ごとに代わりがわり一人が立ってお店をやっている。
「今日はノブさんの日だったんですね。」
「もともと、健二が入る予定だったんだが、撮影が長引いてるらしくてな。」
健二というのは、私と同じようにここで働いているバーテンなのだが、本業はモデルで最近やっとそっちの仕事が順調みたいだ。
ノブさんの本業は美容師で、と言ってもお店で髪を切ってるわけではなく雑誌の撮影や舞台などときにヘアメイクをしているらしい。
健二は撮影でノブさんに会い、ここに飲みにくるようになって流れるように働き始めたと聞いた。
私と健二の他にも、あと2人ここで働くバーテンがいるが、だいたいみんなノブさんに惹かれてここに集まってしまったのだ。
まだ30代になったばかりだと言うのに、ノブさんは自分のお店を持ち、本業も業界では結構有名だと聞くし、なにより人柄がなんというか、男前なのだ。
それに、後ろで結んだ真っ黒な長髪も掘りの深い男ぽい顔によく似合っている。
「なに飲む?」
「ビール!」
最初は絶対ビールが飲みたくなる。
元気に答えたら、隣から嬉しい言葉が聞こえてきた。
「俺がおごってやるよー」
「あ!優希さんじゃん、なにひとり?」
優希さんは、ここの常連さんで、わたしの大学の先輩でもある
年齢的に在学はかぶっていないのが残念だ。。
「碧だってひとりじゃん。俺は後から友達と合流するよ、そのまえに時間あったから寄ったの。」
「そうなの、私はここにくればだれかいるかなって。」
「俺がいてよかったねー。そろそろ3年の成績でるんじゃない?」
「今日出た、でも聞かないで。」
「はは、ここで毎日のように飲んでたもんなー」
せっかく、飲み始めて忘れていたさっき見た絶望的な成績表を思い出してしまった。
「なんかちょっと責任感じちゃうな。」
ノブさんが全然悪くなさそうに言う。
このお店で飲みはじめて、働きはじめて、毎日飲んでいたのは自分が悪いが。
「ノブさんが私を優等生から劣等生に変えたんですよ。」
「もともと、優等生ではないだろ。」
笑いながら言われてしまった、たしかにそうだけど。
「碧—、油科だったよな?」
「んー、そうだよ。」
「今から会うの、大学のときの同級生なんだけど、そいつ来年から油科の助手やるって言ってたかも。」
「え?そうなの、助手さん変わるのかー。」
「碧もくれば?助手とは仲良くしたいだろ?」
ニヤっとしながら言われてしまった。
助手とは確かに仲良くしておいたほうが、なにかと良いことはあるかもしれない。
あの、成績表を見た後だったこともあり優希さんのなんかちょっとしたり顔が気に入らなかったが、私もその飲み会に行くことにした。
「ノブさん、また。」
「碧、明日忘れるなよーバイト。」
「はーい。」
優希さんに連れられて、待ち合わせのお店に行くとひとりだと思っていた友達は二人来ていた。
「お、あれ、女の子連れてきてくれたの?はじめまして。」
愛嬌たっぷりの笑顔で、言われた。
「久しぶりにあったのに、俺より先に碧に挨拶かよ、透。」
はじめに感じたこのひとは人懐っこくて、だれとでも仲良くなれるんだなという神谷さんへの印象は間違っていなかったと思う。
「碧ちゃんって言うの?よろしくね。」
「皐も、久しぶりじゃん。」
そう優希さんが声をかけた先を見ると、