立花課長は今日も不機嫌
第1章
①二つの顔を持つ女
太めのアイラインに、普段とは違うアイシャドー。
肩甲骨まである髪の毛は、ヘアアイロンで丹念に巻いた自信作(注:そう言えるようになるまで、実は何カ月もかかっているのだけれど)。
最後に唇にグロスをたっぷりとのせ――……
これで完成、かな。
若干不安を抱えつつ鏡に向かって最終チェックを終えると、メーク道具を片づけて立ち上がる。
――とそこで
「杏奈(あんな)、忘れ物よ」
隣で私同様にメークをしていた霧子(きりこ)さんが、慌てる素振りもなく私を呼び止めた。
その手にウサ耳をつかんで、妖艶に微笑む。
「……あっ、いけない」
これがなくちゃ始まらないのに。
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