立花課長は今日も不機嫌

そう反論することで、余計に熱くなる顔。
耳まで一気に赤くなっていくのを自分でも感じた。


「でも、立花さんって、あんな優しい顔するんだね」

「え?」

「なんか、去り際に見たこともないような表情で杏奈のこと見たよ」

「――そ、そんなことっ……」


沙月が凝りもせずに変なことを言うから、胸がうるさいほどに高鳴っていく。

違う違う。
そんなの沙月の見間違い。

それこそ、“勘違いするな”と言われるに決まっている。


思いもよらない方向に考えが及びそうになって、対抗措置を講じることに必死になる。


そうだ、こういうときは話題転換に限る。


「鳥塚専務と立花さんって仲良いのかな」


この前も一緒にプリマベーラへ来たけれど。
プライベートでも付き合いがあるんだろうか。


「えー、どうかなぁ。立花さんって、どこかの派閥に入っているわけでもないし、上層部相手でも誰かに取り入るとかいうこともないみたいだけどね」


私の質問にそう答えると、沙月は「それじゃ、またお昼にね」と言ってエレベーターに乗り込んだ。

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